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研究概要

研究内容

本研究提案は、関連分野の多様な研究者による密接な共同研究を通じて、バルクナノメタルが示す新規な物性と特性をその組織・構造との関連から明らかにしようとするものである。本領域が5年間の研究期間内に明らかにしようとする研究項目は、以下の3点である。

  1. バルクナノメタルの材料設計概念の確立(A01)
  2. 多様なプロセスによるバルクナノメタルの製造手法の確立(A02)
  3. バルクナノメタルの特異な力学特性の解明と体系化(A03)

図3に示す本領域の研究組織中の計画班A01~A03 は、上記の研究項目に対応したものであり、その詳細な研究内容は後述する。研究にあたっては、実験的研究と理論・計算的研究を組み合わせ、両者を融合したバルクナノメタルに関する新たな金属材料学の体系を打ち立てることを目指す。我が国は、金属材料の基礎学問と工業化の両方において世界をリードする立場にあり、金属材料学は日本が高い国際競争力を有する数少ない分野の一つであり、本領域を実施する意義は極めて高い。近年、三次元の電子顕微鏡トモグラフィーやアトムプローブ等のナノ材料解析の発達が目覚ましく、バルクナノメタルはそうした新手法を駆使できる格好の対象である。また、コンピューターの発達とともに、原子モデルに基づく大規模計算の対象領域が100nm 立方の大きさに近づいており、ここでもバルクナノメタル研究との親和性が高まっている。本領域は、これらの分野をリードする優れた研究者も糾合しており、関連分野間の融合という機能をも有している。

A01~A03 の各研究項目は、実験的研究を主として行なうグループと、理論的研究を計算機シミュレーション手法を駆使しつつ行うグループの、2つの計画研究からそれぞれ成っている。これは、A01~A03 の研究目標を達成するにあたって、実験と理論・計算の密な連携を図り、効率的な研究遂行を行うためである。そして領域全体としても、実験と計算を真に融合した、新しい材料学の手法と分野を確立することを目標とする。近年、計算機の能力の向上とともに、第一原理計算や大規模原子モデル力学計算が取り扱えるサイズは、サブミクロンに迫ろうとしている。そうした状況下、バルクナノメタルは両者を融合する格好の素材でもあり、本プロジェクトの遂行によって実験と計算を融合した新しい学問領域の構築が期待できる。

図3 本領域の研究組織
図3 本領域の研究組織

本計画の特徴

各計画班の研究内容 (それぞれのタイトルをクリックすると詳細をご覧いただけます)

A01 ア 研究課題:バルクナノメタルの材料設計
強度と延性・靭性の両立といった、従来の常識を打ち破る優れた特性を示すバルクナノメタルの最適材料設計概念を確立することが、本計画班の目標である。本研究では特に、粒界・界面だらけの材料であるバルクナノメタルからの相変態・析出現象の解明に重点を置く。相変態・析出は、材料組織を決定する重要な冶金学的現象であるが、ナノメタルからの相変態・析出は世界的にもまだ全く研究されていない。また本研究では、整合性の良い特殊な粒界である双晶境界を導入したバルクナノメタルの組織制御にも挑戦する。三次元トモグラフィーを含む最先端の電子顕微鏡法や3D-アトムプローブなどのナノ構造解析手法を駆使してバルクナノメタル自身の組織とその組織変化を定量的に解明し、相変態・析出等の固相反応を通じた最適ナノ組織形成の原理と合金塑性の影響を明らかにして、A02班のプロセシングによる創製研究や、A03班の力学特性研究に寄与する。

研究代表者:辻 伸泰 京都大学・工学研究科・教授
A01 イ 研究課題:第一原理計算によるバルクナノメタルの基礎物性設計
第一原理計算に立脚した解析に基づき、バルクナノメタルにおける材料固有の内的因子である、結晶の弾性特性、結晶の理想強度、結晶の力学的安定性、粒界・積層欠陥・転位・双晶・点欠陥の構造と物性およびこれらの相互作用を様々な金属・合金種に対して定量的に解明し、A01研究項目の達成に寄与する。さらに時間・空間マルチスケール理論モデルの構築とそれに基づく解析によって、外的因子である、負荷応力、環境温度、ひずみ速度、結晶粒径の変化に対する結晶安定性や欠陥挙動の変化に着目しながら、これら内的・外的因子が、それぞれどの程度バルク特性に影響を与え得るかを明らかにする。またA03班とも連携して、バルクナノメタルの特異な力学挙動を発現する特徴的な時間・空間スケールが、何によって決定されているかを導出し、金属・合金種を超えたユニバーサルな機械的特性発現メカニズムの理解と機械的特性制御のための基礎物性設計指針の獲得を目指す。

研究代表者:尾方成信 大阪大学・基礎工学研究科・教授
A02 ウ 研究課題:構造精密制御したバルクナノメタルの創製
本研究ではA01班の材料設計指針を受け、ナノレベルで精密に構造制御したバルクナノメタルの創製を行い、さらにナノ構造と力学特性との相関をA03班と連携しながら解明する。バルクナノメタルの創製には、巨大ひずみ加工プロセスや加工熱処理、非平衡・PMプロセス、電解析出プロセスを用いる。巨大ひずみ加工プロセスでは、導入される大量格子欠陥がナノ構造化に果たす役割を明確にする。典型的な格子欠陥である転位と結晶粒界の相互作用とともに、積層欠陥が発生し易い金属種で観察される双晶や、相変態および非平衡相生成過程で形成される異相界面やせん断帯のナノ構造化に対する役割についても明確にする。加工プロセスによるナノ構造化に対して、外的因子である負荷応力、環境温度、ひずみ速度や、ひずみ導入モードの違いが与える影響についても明らかにする。一方、巨大ひずみプロセスとは異なり格子欠陥導入量が極めて少ない電解析出法を用いてナノ構造化を図り、プロセスの違いがナノ組織や力学特性に及ぼす影響についても明らかにする。本計画班では、精密に制御されたナノメタルを創製し、他のグループに試料やプロセス情報を提供して、組織や力学特性の解析評価結果との関連性についての理解を共有し、本領域全体の目標達成に繋げる。

研究代表者:堀田善治 九州大学・工学研究院・教授
A02 エ 研究課題:バルクナノメタル創製の計算機・物理シミュレーション
巨大ひずみ加工プロセスや、相変態を含む加工・熱処理プロセスによるナノ組織生成への、強剪断変形を含む大変形あるいは変形方向の反転を含む大変形の影響を定量的に把握することは、バルクナノメタル創製の機構を把握するための重要なステップである。ここにはバウシンガ効果に伴う応力の減少、剪断を主体とする(繰り返し)塑性変形に伴う結晶構造の変化、これらを支配する転位構造の変化等が関わっていると思われ、バルクナノメタルの生成のみならず、疲労や摩耗といった分野にも応用可能な基礎技術である。本研究では、上記の考えの下、相変態を含む加工・熱処理プロセスによるバルクナノメタルの超微細粒組織形成について、計算機シミュレーション及び加工熱処理再現試験装置などを駆使した物理シミュレーションによる解明を目指す。得られたプロセス設計思想をA02(ウ)班に提供し、実際の創製プロセスの効果的な開発に寄与する。また本計画班により得られる成果は、A03班が対象とする力学特性の解明にも密接に関連する。

研究代表者:柳本 潤 東京大学・生産技術研究所・教授
A03 オ 研究課題:バルクナノメタルにおける力学特性の解明と変形理論構築
サブミクロンサイズの微小束縛結晶内での転位の挙動を段階的に解明し,これらを勘案した新しい変形・強化機構が提唱できれば,材料の力学特性の理解の進歩・発展に画期的・飛躍的な貢献をすることになる.もちろん,新しい変形・強化機構は,実験的に得られている諸現象を合理的に説明できるものでなくてはならない.たとえば,結晶粒径が小さくなるにつれて,強度が増大すること,強度の温度依存性や変形速度依存性が顕著になること,などである.本研究では、微小な束縛結晶空間を持つバルクナノメタルの力学特性の原理的な解明に、様々なアプローチによる実験と、転位論およびマイクロメカニクスに基づく理論の双方からチャレンジする。計画班内では各研究者が分担して、強度、延性、破壊靭性、疲労挙動、外的因子依存性等を明らかにする。また、J-PARCを利用した中性子その場変形解析は、強力な実験ツールである。計画班内で密な連携・討論を行うことはもちろんのこと、A03(カ)班の計算手法アプローチとも一体となって研究を推進する。本計画研究により得られる研究成果は、A01班の材料設計にも、A02班のプロセス構築にも大変大きな影響を与える。

研究代表者:加藤雅治 東京工業大学・総合理工学研究科・教授
A03 カ 研究課題:内部欠陥構造発展の大規模計算によるバルクナノメタルの力学特性解析
バルクナノメタルにおいては、その構造単位がナノスケールとなり,単位体積辺りの粒界・界面(面欠陥)の割合が急激に増加することから,粒界を介した格子欠陥の発展が通常とは異なる力学特性を引き起こす要因として考えられる.そこで本研究では,粒界の原子構造を直接表現できる原子モデル(分子動力学法)と,粒界の影響を考慮した連続体モデル(大変形結晶塑性論)を用いて,2つの異なるスケールに基づきバルクナノメタル中の複雑な内部格子欠陥の発展を大規模計算により表現する。A03(オ)班より得られる様々なバルクナノメタルの力学特性の発現メカニズムを解明するとともに、その成果をA01、A02を含む他班に還元し、またバルクナノメタルのマルチスケールな計算材料科学基盤の構築に寄与する.本計画班の研究代表者は、先行の「巨大ひずみ」特定領域において、超微細粒金属の変形に関する大規模計算より多数の優れた知見を獲得しており、それを生かして本領域の研究を直ちに遂行することができる。

研究代表者:下川智嗣 金沢大学・機械工学系・准教授

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